タスクシュートはじめました。使いはじめての雑感

追記:本文中で紹介したライフハック心理学の方で、この記事を取り上げていただいたようです。ありがとうございます。

とても久しぶりのブログ更新となりましたが、今回はタスク管理ツールである「タスクシュート」を使い始めたのでその話です。なんだか思ったことを徒然と書いていたら長くなってしまいましたが、せっかくなのでそのまま上げてみます。

これまでのタスク管理

もともとタスク管理手法やライフハックなどには興味があって、以前から様々なツールを試してきました。ざっと思いつくものを挙げても、ウェブサービスであればRemember the Milk、ToDoist、Toodledoなど色々なものを試しました。手法自体もGTDポモドーロテクニックなど、有名どころは色々とやってみました。

ただ、どうにも「君に決めた!」というものが見つからず、紆余曲折を経て現在はテキストにタスクを書き出すというかなり古典的な手法に落ち着いていました。

工夫をしている点をしいて挙げるとすれば、アウトラインプロセッサを用いて1日ごとにタスクリストを更新しているぐらいだと思います。これはその日1日になにをしたかというログを残すためです。また(実践できないときも多かったですが)、タスクを行う際にタイマーで時間を計測して、タスク終了後にかかった時間を記入するという手法も併用していました。

これでそれなりの作業効率は保てていたのですが、最近は割り込み仕事が増えたりした影響もあり、やや限界を感じはじめていました。どうしても割り込みなどがあると、一つのタスクが完了とならずに中途半端になってしまいます。それでも期日や必要性の高い仕事はとにかくこなすのでなんとかなりますが、優先度は高くないもののやっておいた方が良い仕事などはどうしても放置してしまいがちです。

そこであらためてタスク管理手法を見直して、「そういえば試したことがないな」と思ったのが「TaskChute(タスクシュート)」でした。

存在は知っていたタスクシュート

タスクシュートはシゴタノなどで連載ももたれている大橋悦夫さんが開発したツールですが、特定のアプリケーションではなく、マクロ機能を使って作られたエクセルファイルになっています。

・TaskChute2 ダウンロード
※リンク先では有料の「TaskChute2」が主に紹介されていますが、ページ下部に無料版の「TaskChute1」のダウンロードリンクも掲載されています。

もともとタスクシュートについては、開発者の大橋さん以外に、ライフハック心理学というブログを書かれている佐々木正悟さんの日々の記事でずっと気になっていました。

話が少し脱線しますが、この佐々木さんの思考法は私に似ている部分があるなとよく感じていました。たとえば集中力はせいぜい数十分も続かないとか、困難なタスクの前には水を飲むとか、自分が以前からとっている行動や思考と同じものがかなりありました。

ちなみにとくに好きな記事は、(移転前のブログの記事ですが)小分けにしてもできないときはみじん切りにするというものです。とにかくこれ以上ないぐらいまでタスクを細分化するという手法ですが、自分も過去に非常に気分が落ち込んだ時期などになんとか行動するときに参考にさせてもらいました。

しかしながら、その佐々木さんが日々愛用されているというタスクシュートについてはどうも「1分単位で時間を管理するような手法は絶対自分には無理だな」と思い込み(そもそもこの考えが完全な誤りだったとあとで気づくのですが)、敬遠したままになっていました。

ところが、ちょうどタスク管理について見直そうと思っていた折、タスクシュートは前進させるという記事を読んで色々と考えさせられました。

しかし、自分の心理的な動きを時間を計測しつつ記録していくと、同じようには感じません。ヨレヨレながらも、自分もちゃんと生きていて、起きて、動きについて行っているような感覚を覚えます。呼吸しているだけでもです。そして、その方がリアルに近いと思うのです。なぜなら私は、本当に静止して、死んでしまっているわけではないからです。

たしかにタスク管理ツールを使っていて辛いのは「自分は十分な仕事をこなしていない」と感じるときです。もちろんそれには「ログをとればそれでもなんとか仕事していたと分かる」という回答があるはずですが、どうにも「自分がこなしたタスクを見るだけではそれが十分とは感じない」のです。たとえ客観的に自分の理性が「適切な量をこなした」と考えられるときであっても、不充足を感じます。そして調子が悪くて全然進まなかったようなときには、さらにひどい落ち込みを感じます。

これはじつは仕事量の問題ではなく、「自分もちゃんと生きて」いることを実感するかどうかという別の問題ではないかとも記事を読んで感じました。そこで、その生きているという実感を得るためのツールとしても推奨されているタスクシュートをあらためて使ってみようと思ったのです。

タスクシュートをはじめてみた

そんな経緯があり、まずは無料版のTaskChute1をダウンロードして使いはじめてみました。現在、使い出してから一ヶ月程度ところですが、想像以上に効果が上がっています。

タスクシュートの使い方の解説は公式サイトや、あるいは検索するとたくさんの詳しい記事があるのでそちらに譲るとして、使いはじめて気づいたことなどを中心に書いてみたいと思います。

1分単位で時間管理されるものではない

まず最初に、自分がタスクシュートに持っていた大きな誤解について説明しておきます。

タスクシュートを使っている人のブログでスクリーンショットなどを見ると、ずらずらと並んだタスクの横にそれぞれ「17:08 | 17:31」、「17:31 | 18:02」、「18:02 | 18:26」のように開始時間と終了時間が入力されています。

こうした画面を今までよく目にしていたため、てっきり自分はタスクシュートは1分単位で決められた、まさに分刻みのスケジュールに沿って動くものだと思い込んでいました。まるで忙しいタレントがマネージャーに「あと何分で○○出演」と急きたてられるように、とにかくタスクシュートに従って行動する仕組みなのだと誤解していました。

けれど、これはまったく違います。もちろん1分単位で時間を「管理する」ことは(使い手がしようと思えば)できるのですが、これはけっして(強制的に)「管理される」ものではありません。

というのも、タスクシュートでは開始時間は、「その都度」自分で入力するものだからです。この「その都度」というところが重要です。たとえばスケジュール管理ツールの場合、「○時に会議」、「○時に打ち合わせ」といった動かせない予定を基準に考えます。これがこまかくなると、前述の例の分刻みのスケジュールになります。

しかしタスクシュートでは、自分が「よしこのタスクをはじめるぞ」と思った瞬間に自分で時間を入力します。そしてタスクが完了すれば終了時間を入力します。つまり「○時○分になったからはじめないといけない」と、ツール側から強制も推奨もされないのです。

また「17:08 | 17:31」、「17:31 | 18:02」のように、一つ目のタスクに続けて一分の間も置かずに次のタスクが入っているのを見ると、これも1分単位で縛られているように見えがちですが、実際は異なります。

タスクシュートでは一日のあらゆる出来事をタスクと考えるため、基本的にはタスクごとに切れ目がありません。言い換えるなら、歯を磨くのも、風呂に入るのも、自販機にジュースを買いにいくのも、ちょっとネットのニュースを見るのも、すべてタスクという考え方をしています。

そのため「17:08 | 17:31」で一つのタスクが終わった時点で、「少し疲れたから休憩しようかな」と思えば、「17:31」からはコーヒーブレイクの時間を入れます。そして休憩を終えようと思った時点で「17:31 | 18:02」と休憩タスクを完了し、続けて「18:02」からまた次の仕事なりなにかしらのタスクに取りかかればいいわけです。

というわけで、タスクシュートは時間に常に迫られながら使うものでもなければ、仕事をこなしつづけなければいけないものでもありません。じつはとても自由なツールだといえます。

なお、それでもすべての行動をタスクにするというのは最初はハードルが高いと思います。ただ、それならそれで、そのとおりに使えばいいのです。実際、この記事を書いている自分も、タスク同士の合間に、数分の隙間時間が生まれることはしばしばあります(「17:08 | 17:31」のあとが、「17:34 | 18:05」となり、3分程度の空白時間が生まれています)。また日によってどうしてもタスクシュートでは管理しにくい(自分の裁量で行動できる時間がほとんどない)ような日もありますが、そういう日は使うのを避けています。

とにかく自分の状況や環境にあわせて柔軟に使い方を変えられるツールなので、マニュアルもありますが、あまりそれに縛られる必要はないと思います。

破綻感が少ない

上記の時間管理の話ともかぶる部分がありますが、使い始めて感じたメリットのひとつに「破綻感が少ない」ということがあります。

たとえばToDoベースのタスク管理ツールだと、一日の最初に「本日中に行う予定のタスク」をまずまとめるのが一般的です。

かりに10個のタスクがあったとして、もちろんそれが上手くすべて完了すれば良いです。しかし実際には8個しか終わらなかったり、重要な5個だけやって残りは翌日に回したり、ときには予定外のことが起こって最低限の2〜3個しかできなかった日もあるはずです。

こんなときに感じるのが「予定が破綻した」という感覚です。こなすべき量をこなすことができなかった=一日が失敗した、という感覚が残ります。かりに大切な来客なり、新しい商談なりがあって、全体としては成功の一日だったとしても、予定していたタスクすべてが完了しなかったこと自体には破綻や失敗を感じがちです。

これはなぜかというと、感覚的な話になりますが「一日のタスクの総量を最初に設定して、それを一日という枠組みに押し込めようとしている」からだと思います。

いうなれば、小さな箱を目の前にして「これだけは詰め込めるだろう」と考えた量の粘土を押し込もうとする感じです。それがきっちり詰め込めればいいですが、風邪を引いていて一日の許容量が減っている(箱が小さい)状態だと簡単に溢れたり、あるいは他の割り込みによって箱の容積がすでに食われていると、予定量が入らなくなります。

しかし、タスクシュートではあまりこうした破綻感を感じません。これは「タスクを順番に入れていく」ためのような気がします。

つまり「一日の予定タスク量」という大きな粘土を最初に用意するのではなく、すべてそれを細かな粘土の塊に分けます。そして一日という箱の中にゆっくり順番に詰めていきます。途中で割り込みなりで箱が他のタスクで埋まったら、それはそれとして残った部分にまた小さな粘土の塊を詰めていき、そして一杯になったら「ふう、やれやれ。今日はここまで。箱が一杯だしな」と考えて終了します。

このとき破綻感はさほど覚えません(まったくないわけではないですが)。なぜなら目の前にある箱はたしかに一杯であり、それ以上は入らなかったということが、「結果だけでなく」「過程の途中も含めて」実感できるからです。そのため当初の計画が破綻しても、よしとします。

そして箱を詰めていく過程が時間推移とともにログに残るために「とにもかくにも生きていた」という実感を得ることにも繋がります。たしかにこの感じは使ってみないと分からない部分があると思います。

現状を認識するもう一人の自分を作れる

最後に「で、仕事は捗るのか」ということですが、基本的には答えはイエスです。でも、破綻感の少なさや生きている実感はともかくとして、捗るのはなぜでしょうか。

自分でもまだ完全には答えが出ていないのですが、これは「客観的なもう一人の自分が生まれるから」ではないかといまは考えています。

さきほど引用した佐々木さんのブログ記事に、同じくこんな箇所があります。

おかしな表現になるのは、自分に非常に接近して物事を観察しだしたときによくあることです。私達は目でものを見ますが、目で目を見ることはできないような、そんな事柄です。もっと近づいて、自分の目の奥が、何かを見ている様子を見るということはできないのです。

人間はたしかに目という視覚に引きずられやすい生き物であるにもかかわらず、自分自身を目でみることが原則としてできません(鏡を使うとかすれば別ですが)。そのためたとえばメールを書かなければならないのにネットサーフィンに逃避している自分を、自分で観察することはできません。

ところがタスクシュートでは、基本的にすべての行動がログに残ります。べつにネットを見たければ「休憩」なり「ネットを見る」なりのタスクを追加すればいくらでも見れるわけですが、それはログとして残ってしまいます。あるいはタスクを追加せずについ逃避してしまった場合でも、「あとでこの時間はログにどう残るのか」ということが頭の片隅に残ります。これが逃避を抑制します。

通常のタスク管理ツールでは、自分がタスク(仕事・作業)として考えていたものしかログに残さないため、逃避の結果は残りません。だから逃避自体の罪悪感が少ないですし、また「あとで頑張って残りのタスクを終わらせれば帳尻がつくさ」と考えがちです。

しかしすべてのログが残るタスクシュートでは「あなたは○分逃避していましたよ」というログをあとで見せ付けられることがわかっているため、自制心が働きます。よく「会社では仕事が捗るのに、自宅ではなにもできない」や「部屋だと勉強できないのに、図書館だとできる」のように衆人環視の目がないと集中できないという人がいます。いうなればタスクシュートでは、頭の中であとでログを見せ付けてくる自分、というもう一人の自分がいるため、これがこうした周囲の目のかわりを果たしてくれる。そんなふうに感じています。

それから別の利点として、終了時間を決めてなくていいこともあります。たとえばタイマー設定や、25分を一区切りとするポモドーロテクニックなどでは「あと○分で終わらせないと」と焦ったり、逆に「いま調子がいいのに時間が来てしまった」のような集中力を切らせるデメリットもあります。しかし自分で終了時間を入力するだけのタスクシュートであれば、調子が良いときはどんどん進められます。

以上、思いつくままにタスクシュートを使いはじめての雑感などを書いてみました。なにかしら「おっ」と思う部分があれば、ぜひ一度使ってみてください。